【3453】 ◎ ルイス・V・ガースナー (山岡洋一/高遠裕子:訳) 『巨象も踊る (2002/12 日本経済新聞社) ★★★★☆ 《再読》

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「大組織再生の一大記録」としての普遍的な価値が増している本。評価を○→◎に変更。

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巨象も踊る』['02年]

 1990年代前半、社員30万人を抱え破綻寸前だった巨象IBMにCEOとして乗り込み、復活させた著者の物語です。

 巨大企業IBMはかつて、パソコンのOSの支配権をマイクロソフトに、マイクロプロセッサーの支配権をインテルに委ねましたが、その後のパソコンの普及、ダウンサイジングなどにより、90年代初頭にはそれらの新興企業とは対照的に、メインフレーム主体の経営は悪化していました。にもかかわらず、社内には連帯感や危機感が薄く、いわば大企業病が蔓延していた、そこへCEOとしてナビスコから来たのがコンサルタント出身で、情報産業の門外漢だった著者ですが、著者がどのようにして大企業病からの脱却を図り、経営を安定させたかを、本書では専門ライターを使わずに自身が克明に述べています

 第Ⅰ部「掌握」では、CEO就任当時のIBMの問題点を、製品市場、組織、企業文化などの観点から述べ、著者が就任直後に打った手として、会社の分社化の阻止、メーンフレームの値下げの決断などを挙げています。また、取締役会を刷新し、社員との対話を推し進め、組織を作り替え、ブランドを再生したとしています。さらに、報酬制度も、均質的な固定報酬から業績本位の変動報酬に改めたとしています。

 第Ⅱ部「戦略」では、IBMの新しい戦略として、総合的なソリューションの提供を今後の戦略の基本とし、地域ごとの独立王国を解体し、全世界的に産業別のグループに再編、ブランド戦略の統一するとともに、スタッフを分解して事業の的を絞ったとしています。

 第Ⅲ部「企業文化」では、著者は、企業文化は経営の一側面などではなく経営そのものであるとし、新しい企業文化の原則をまとめることで行動様式の変化を促すとともに、リーダーたちにIBMにおける指導能力とは何かを示し、社員全員に求める姿勢を「勝利、実行、チーム」というスローガンにしたとしています。

 第Ⅳ部「教訓」では、自分のビジネスを知り、愛していることが肝要であり、また、戦略は重要だがそこには限界があって、経営者にとっては実行する能力こそが最重要であり、組織の変革の成否は、顔が見えるリーダーシップが重要な要因となるとしています。顔が見えるリーダーシップの意味するところは「ビジネスへの情熱」「勝利への情熱」であり、成功した偉大な企業の経営幹部は、「全員が情熱を持ち、情熱を示し、情熱に生き、情熱を愛している」としています。

 第Ⅴ部「個人的な意見」では、IT産業のこれからや企業株主の責任、企業と社会の関係の在り方について述べています。世の中には「動きを起こす人、動きに巻き込まれた人、動きを見守る人、動きが起こったことすら知らない人」の4種類の人間がいて、本書は「動きを起こす人」をテーマにしているとしています。

 本書に見られる著者の経営哲学は、① 基本哲学は「事業の絞り込み、スピード、顧客、チームワーク」、② 市場と現場を重視、③ 個人や部門中心でなく、チームワークで会社の利益を優先、④ 社内の組織や手続き重視から原則重視、などです。

 幹部役員を顧客のもとへ出向かせて報告書を提出させることから、服装規定の廃止まで、著者の強固なリーダーシップと、著者の導く方向性を信じる大勢の社員によって、IBMの企業文化の変革がなされたことが窺えます。

 卓越したコンサルタントの理論と思考が、実際の経営者として数々の難問に身を投じて獲得してきた知見とともに、熱のある言葉で語られており、今読んでも説得力のある記録となっています。と言うより、20年近く前に読んだ特はケーススタディとして読みましたが(評価★★★★)、今回読み直してみて、「大組織再生の一大記録」として、普遍的な価値が増しているように思いました。

【2203】 ○ ジャック・コヴァート/トッド・サッターステン (庭田よう子:訳) 『アメリカCEOのベストビジネス書100』 (2009/11 講談社)
【2701】 ○ 日本経済新聞社 (編) 『マネジメントの名著を読む』 (2015/01 日経文庫)

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